敷地は坂の上の三叉路、アイストップになる場所にある。90坪の平場を持つ敷地でありながら、道路から約3mの石積み擁壁の上にあり、道路斜線制限が厳しく、しかも土砂災害特別警戒区域内ということもあり、構造規制やセットバックなどの条件を充しながら、数台分のガレージと快適なアプローチを提案する必要があった。敷地に建つと広島の街を流れる一級河川の大田川が眼下に望める気持ち良い風景があった。東方向ではあるが河川に対して開放し、浮遊感を感じる空間を創りたいと思った。
先ずは約3mの石積み擁壁を解体し、前面道路からフラットにアクセス出来るアプローチを設けたことで5台分のインナーガレージを計画した。前面道路には勾配があったので、敷地東西で約2mのレベル差がある。そのレベル差を端緒としてスキップフロアで、空間が気持ちよく連続してゆく5つのレベルを持つ断面計画とした。中間層にパブリックなLDKを計画するのが利便性でのセオリーではあるが、眺望の良い最上階にLDKを計画し、さながら船の甲板に立つ浮遊感を実現した。一見3階建のように見えるが、基準法上2階建扱いなので、低層住居地域でもこの断面計画は建築可能である。
また重量鉄骨造と鉄筋コンクリートをミックスした構造を採用し、敷地と住宅の安心安全を担保しながら、同時に自由度の高い開放性ある空間を実現した。
建築空間とは、=『床、壁、天井という衣装』と言い換えられる。そのまとっている空間衣装は、家具や照明器具などを含め、好きな色、素材、触感、デザインであって初めて心地よさと幸福感を得られるものである。
今回の住宅を一言で表すなら、敷地のリスキーな部分と場の力を設計建築力で活かした形で箱を造り、そしてそこに住まい手の空間衣装への強いこだわりを融合させた住宅と言っていい。
船好きなご家族にとって『坂の上の船』での新たな航海で、どのような時間を過ごされるか設計者として想いを馳せる。